クジラたちの水中感覚;捨てて拾い直した?嗅覚+石垣ダイブのサカナたち

クジラたちの水中感覚;捨てて拾い直した?嗅覚+石垣ダイブのサカナたち
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グルクンやハナゴイが舞うサンゴ礁REVdownsize
(グルクン(タカサゴ)やハナゴイが舞うサンゴ礁:西表島)
海に棲むクジラが臭いを嗅ぐの?
クジラの嗅覚のお話しです。え、クジラが臭いを嗅ぐの?そうなんです、一旦嗅覚を捨てたのにまた拾ったようですよ。
つながりで「第2の嗅覚」の過去記事はこれです、クリックで飛びます↓
呼気で感じる風味の正体、第2の嗅覚で豊かで健康な生活




海鳥もクジラも磯臭さで餌を知るREV
(海鳥もクジラも磯臭さで餌を知る・・らしい)
読んで楽しい臭いを嗅ぐクジラの本
とても薄く、ページ数も控え目、グラビアもなく、話題は超マイナー・・・ながら、とても面白く、楽しく、一気に読みました。出典著者はポスドク時代に世界に先駆けクジラの嗅覚を見つけた岸田拓士氏です。多分ホンネの等身大で書いておられるからでしょう。

イソギンチャクの茂みのクマノミdownsize
(イソギンチャクの茂みのクマノミ:石垣島)
石垣島ダイブで出会ったサカナたち
海に戻った哺乳類、クジラたちのお話しにつき、添えるのは石垣島ダイビングでまだご紹介していないフォトです。
石垣ダイブの過去記事はこれです↓
6月の海は恋の季節石垣島ダイビング記
珊瑚礁の宝石、色鮮やか魚たち 石垣島ダイビング番外編
もしもしカメさんどこから来たの?+ 竜宮城のような石垣の海 番外編
みんなで育てばコワクない、植物の共存共栄+先島諸島の珊瑚礁散歩
光ってパートナーを育み護るサンゴ 石垣のサンゴ礁と魚たち


ヒゲクジラの嗅覚
(クジラの嗅覚って??)
海に生まれて海で暮らす哺乳類
「海棲羊膜類」とは海で暮らす哺乳類などのことで、その内、クジラ目(クジラやイルカたち)は出産、子育ても含めて一生涯を海で暮らします。水中に戻ったクジラ類は脚が鰭になるだけでなく五感のすべてが水中生活に適応して変わってしまった(進化した)ようです。

暗い水中でのエコーロケーションと言うハクジラたちの解決策
潜水艦やこれを探るフリゲート艦はソナー、音波探知機で敵の居場所を探ります、なんせ水中はよく見えないので。ハクジラ(マッコウクジラ、イルカなど)の探知システムはこれと同じで、視覚の代わりに音波を出して反響(エコー)で深海のイカなどの餌や敵を探知するエコーロケーション(反響定位)を発達させています。つまり超音波を感知する聴覚です。

スカシテンジクダイの群れにかすむダイバーdownsize
(スカシテンジクダイの群れにかすむダイバー:石垣島)
オキアミ大好き♡濾過食クジラの嗅覚のメリット
じゃ、もう一方のクジラ類、海面でオキアミなどを濾しとり捕食するザトウクジラなどのヒゲクジラたちにとってはどうか?音波探知より海面の臭いの方が役立つようです。これまで注目されなかったクジラの嗅覚の働きを明らかにしたのは著者岸田拓士氏と共同研究者J.G.M.Thewissen氏の研究成果です。
(新聞記事にもなったようです。クリックで飛びます→「伝説通り?ホッキョククジラ、においを識別。京大など発見」(朝日新聞2010年10月26日夕刊)


海鳥は「磯臭さ」で餌の群れを嗅ぎ取る、クジラも?
海鳥が嗅ぎ分ける「磯臭さ」の正体はジメチルスルフィド(DMS)、植物プランクトンの臭い。そこには餌の動物プランクトンもたくさんいるから。ヒゲクジラも似た条件なので餌のプランクトンを求めて「磯臭さ」を嗅いでいるかもしれないですね(出典著者はそのように推測しています)。

ヒゲクジラの嗅覚は親戚のウシとは違う
クジラ類の先祖はウシの先祖と同じ偶蹄目、カバにより近く、クジラやイルカは「海の帰ったウシ」です。ところがクジラ類の嗅覚はウシとはかなり違ってしまっているようです。
マッコウやイルカなどハクジラ類は嗅覚をほとんど使っていないようで、鼻の孔はつぶれ、嗅覚受容体遺伝子などの「嗅覚の部品」が壊れてしまっています。一方のヒゲクジラたちの嗅覚もウシとは違うようです。


スウェーデンカラーがおしゃれなニシキヤッコREVdownsize
(スウェーデンカラーがおしゃれなニシキヤッコ:石垣島)
警戒システムとしての嗅覚
膨大な種類の臭い物質を多種多様な嗅覚受容体(GPCR)で検出するのが嗅覚ですが、その中でも取り分け天敵の捕食者の臭いを嗅ぎ取り、食べ物の“毒”(腐敗も含めて)を口にする前、飲み込む前に感知する「警戒システム」の働きをする嗅覚があります。嗅覚受容体ファミリーもその情報を受け取る嗅球の部位も他の嗅覚とは異なっています。

ネコも恐れぬ警戒システム欠如のネズミ君
嗅覚を担う脳の部位は嗅球ですが、ザックリ分けて嗅球は背中がわとお腹がわの2つの部位に分けられます。その内、背中がわ(背側側)が敵や毒を知る「警戒システム」としての嗅覚を知覚する場所です。遺伝子操作で嗅球の背側部をなくしたネズミ君はもはやネコをまったく避けなくなったそうです(怖いもの知らず、でも間違いなく食べられる!)。

臭い警戒システムを捨てたヒゲクジラ
ヒゲクジラたちは敵や毒を嗅ぎ分ける「警戒システム」である嗅球の背側部位がそっくりなくなっているそうです。だって天敵であるシャチなどは陸上からではなく水中から忍び寄りますし、クジラの鼻の孔(鼻腔)は口(口腔)とつながっておらず“食べ物の臭いは嗅げない”のですから。

口がかわいいゴマチョウチョウウオREVdownsize
(口がかわいいゴマチョウチョウウオ:石垣島)
嗅覚の変遷からクジラの進化も見えてくる
これだけなら「クジラの嗅覚って変だネ」で終わりなのですが、嗅覚は構成する嗅覚受容体や嗅球神経細胞のたんぱく質や遺伝子を分子レベルで調べられます。
すると働く仕組みやその変異だけでなくクジラの嗅覚の進化が、ひいてはクジラの歴史、「いつ、どうやって海に進出したのか?」を読み解くことが出来るのだそうです。出典著者のこの独創的な着眼点がクジラの進化研究を一歩進めたようです。


ハクジラの嗅覚遺伝子は壊れている
遺伝子は壊れても(変異で機能がなくなる)使うニーズがなければそのまま「偽遺伝子」という残骸として残ります。陸に棲む哺乳類では臭いセンサー、嗅覚受容体の偽遺伝子は稀ですが、海に棲むハクジラ(イルカなど)では多くが壊れて偽遺伝子になっています。ところがヒゲクジラはその中間で一部が偽遺伝子で、不完全ながら嗅覚があることを反映しています。

夢中でサンゴをかじるゴマチョウチョウウオdownsize
(夢中でサンゴをかじるゴマチョウチョウウオ:石垣島)
容れ物の化石からムカシクジラの嗅覚を探る
クジラの化石では脳組織の嗅球は残っていませんが、その“容れもの“である骨(頭蓋骨の一部)は化石として残ります。陸から水辺に進出するもまだ水陸両用(両棲)であったパキケトゥス科は完全な嗅球、ほぼ海で暮らしたらしい(水棲)レミングトノケトゥス科では現在のヒゲクジラと同じく嗅球の背側部がない不完全な嗅球だそうです。
敵や毒の臭いを感知する背側部は陸の暮らしに必須でも海では要らないからでしょうか。


浅い海でウシはクジラになった
5600万年前頃からの始新世は温暖化による海進期で浅い海や沼が広がり、4900万年前頃陸上と水中を行き来するカバのような両棲のアンブロケトゥスが現れ(骨が重く水の中を歩きやすい)、やがて始新世4300万年前までには水中だけの生活になり(足がヒレになる)レミングトノケウスが現れました。
その後、「ムカシクジラ」と総称されるクジラの祖先たちは更にヒゲクジラ類とハクジラ類に分かれました。(クジラの最初期祖先は5300万年前頃のパキケトゥスですが、似ても似つかぬ“ハイエナ”風です)


嗅覚からクジラの進化を辿ると・・
このクジラの進化、水中進出の歴史を嗅覚に注目して辿ってみると、フルセットの嗅覚を持つウシ(の先祖)が水棲のムカシクジラになり、その子孫の1つ、ハクジラ類はエコーロケーションを獲得して嗅覚は捨てたようです。

進化はやっぱり行き当たりばったりのご都合主義
もう一方のムカシクジラの子孫、ヒゲクジラ類は再び嗅覚を、でもその一部だけ(嗅球腹側の嗅覚)を再度獲得したようです。進化は「計画性」なぞ皆無の行き当たりばったり、クジラの嗅覚の進化の実態もややこしいのですね。

活き活きとした等身大の若手研究者デビュー話
今回の出典ではその著者、岸田拓士氏のポスドク時代の研究成果で優れた研究者が国内外の研究協力を得ながら研究を進め論文にまとめるまでの逸話や苦労など若手研究者のデビュー話も活き活きと綴られていて、とても楽しく読み終わりました(若き日に基礎研究と決別した身にとっては特に・・)。

捕鯨国ゆえの出典著者の思わぬ災難
また、幸か不幸か岸田氏の研究材料がクジラであるため、日本の調査捕鯨への海外からの批判に絡んで、岸田氏の論文の掲載にストップがかかったそうです。これを通して著者、岸田氏は日本の調査捕鯨は本当に科学研究なのか?という疑問を投げかけています。

以下、リンクは貼っていません
出典: 「クジラの鼻から進化を覗く」 2016年、岸田拓士氏著(慶應義塾大学出版会)
出典(著者研究成果の新聞記事): 「伝説通り?ホッキョククジラ、におい識別 京大など発見」(http://plaza.rakuten.co.jp/yt98017/diary/201010270002/)朝日新聞記事October 28, 2010
出典: ウキペディア記事「嗅球」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%97%85%E7%90%83)
出典: ウキペディア記事「クジラ類の進化史」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%83%A9%E9%A1%9E%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%8C%96%E5%8F%B2)


以下は「おまけの余談」です、ご興味あれば「続きを読む」をクリックください↓

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そもそも嗅覚ってなんだ?
「嗅覚とは?」とは「臭い?を感知する感覚」、じゃ“生まれた川の臭い“を辿って遡るサケが感知しているのは「水中の臭い?」、空気中であれ、水中であれ特定の化学物質を感知するのが嗅覚、揮発性か水溶性かを問わないのです。

嗅覚と味覚はセンサーと中枢が違う
それでは嗅覚と味覚は何が違う?同じく化学物質の感知だけど化学センサーである受容体(タンパク質)とこれを情報処理する脳の中枢が違うのです。一方、昆虫など無脊椎動物では臭いの受容体(嗅覚受容体)が哺乳類など脊椎動物とは違っています。私たちの「嗅覚」とは嗅覚受容体が検出し脳の前方の底にある「嗅球」で情報処理されて知覚される化学物質感覚です。

多種多様なサカナの嗅覚??
サカナの嗅覚って?陸に棲む私たち哺乳類の嗅覚とは「臭い」=「空気中の揮発性化学物質」を感知することですが、魚類では水中の化学物質を感知することです(センサーである受容体が違うので味覚とは別物)。

上陸で多くの臭いセンサー(嗅覚受容体)を失う
サカナの化学センサー、嗅覚受容体には多種多様で9つものグループに分けられますが、陸上進出とともに多くを失い哺乳類などの嗅覚受容体は2つのグループ(クラスI、クラスII)しかありません。

ダイビングで感じる「陸の五感が役立たない!」
ヒトの感覚は海中(水中)ではとても不便。出典著者の岸田拓士氏は海の野外研究のダイビングでこのことを実感したそうです(同じくダイビングをする私も納得)。加えて、サカナやクジラなど水棲動物とヒトの視覚が違うことを示したJ.I.Fasick氏らの先駆的研究に出会ったことも今回ご紹介する岸田氏の研究のきっかけのようです。

青い水中では一番よく見える色が違う
Fasick氏らはヒトとサカナやクジラの視物質ロドプシン(まず最初に、視物質が光を感知し、やがて脳に伝わり視覚が生まれる)が一番感じる色(最大吸収波長)を比べて海の生き物がその棲息深度に応じて最適波長がシフトすることを見出したそうです。視覚では赤い光(長波長側)が届きにくい“青い水の中“に合わせて一番よく見える色が青い方に、すなわち視物質の吸収極大が短波長側にシフトしています。

感覚器は棲む場所に応じて進化する
また、クジラ類は立って歩かなくてよくなったので平衡感覚は退化しています。陸から再び海に戻ったクジラ類では水中生活への適応による進化でその五感が相当に変化してしまった、それも進化の歴史から見ればごく短期間に変わったようです。


曲がったあごで音を聴くイルカたち
ところで、ダイビングをすると分かりますが、水中では頭蓋骨を介して音が聞こえ、ちょっと変な音になります。イルカなどは耳(内耳)と下あごがつながり、かつ頭蓋骨と離れていて“下あごで音を聴き”ます。その下顎はちょっと曲がっていてエコーロケーションの超音波がよく聴こえるそうです。

やっぱり面白いクジラの進化
この本に出合って「クジラの進化って結構面白いゾ」と思いました。

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