構造湖で高速進化したシクリッドたちの遺伝子のヒミツ

構造湖で高速進化したシクリッドたちの遺伝子のヒミツ
“開拓者”からどのようにして「華麗な一族」が生まれたのか?


シクリッドの適応放散
(シクリッドの適応放散)
シクリッドは構造湖で第2のアゴを使って高速進化
前編ではシクリッド(カワスズメ)たちがアフリカの裂け目の巨大な構造湖の環境で高速進化し第2のアゴと言う秘密兵器で大繁栄した・・と言う話題でしたが、じゃ、どうやって「高速進化」出来たのか?・・と言うのが今回(後編)の話題です。
前編はこちらをクリック↓
2つのアゴを持つ「一芸に秀でた何でも屋」シクリッド





悠々と泳ぐヒフキアイゴREVdownsize
(悠々と泳ぐヒフキアイゴ)
高速進化の“しくみ”、シクリッドの遺伝子に起こったこと
出典の著者、Meyer氏らはシクリッドの全ゲノム配列解析を成功させ、「シクリッド・ゲノム・コンソーシアム」と言う研究プロジェクトを立ち上げ、ヴィクトリア湖の6種のシクリッドの遺伝子を解析し比較しました。どうやらシクリッドたちには大規模な「適応放散」が短期間に何度も起こったらしく、その“しくみ”、さまざまな遺伝子変異の分子機構を探ると言う研究です。

・・・て、どゆこと?

青い宝石デバスズメダイREVdownsize
(青い宝石デバスズメダイ)
遺伝子変異を貯めていたシクリッドの先祖
構造湖のシクリッドたちの先祖、「祖先種」は河川に棲んでいて、そのゲノム(genome、一揃えの遺伝子DNA)には昔からの遺伝子変異が少しずつ蓄積し、潜んでいたようです。
やがて構造湖が出来て、ガラ空きの新しいニッチ(niche、生態的地位)がたくさん出来ました。
ちょうどコンサート会場が開き、みな一斉に入場して、アっという間に空席が埋まるようなもんです。


遺伝子重複のメリット
(遺伝子重複のメリット)
ガラ空きの“席”に一気に子孫が拡がった
するとごく短期間のうちに、シクリッド祖先種から一気に多種多様なシクリッドたちに「種分化」が起こり、子孫のシクリッドたちはそれぞれに“空席”、つまり新しいニッチに収まったようなのです。
「カンブリア紀の爆発」にも通じるものがありますね。


竹富島オレンジピールにいたハマクマノミREVdownsize
(竹富島オレンジピールにいたハマクマノミ)
遺伝子をオン/オフする遺伝子が変わるだけで・・
このようなシクリッドの高速進化では、古くからの機能遺伝子が変わらなくても、その遺伝子(の発現)のスイッチをオン/オフする調節遺伝子に変異が起こったようで、その結果短期間に多様に種分化したようです。

あわてて逃げるシマキンチャクフグの赤ちゃんREVdownsize
(あわてて逃げるシマキンチャクフグの赤ちゃん)
のどかな時代に貯めた「遺伝子多型」が種分化の原動力
天敵や競争が少なく、環境激変もない、即ち選択圧があまり高くなかった“のどかな時代”にシクリッドの集団(の遺伝子プール)に予め遺伝子多型(genetic polymorphism)の状態で蓄積し、潜在していた変異(standing variation)が、その後のシクリッドの高速進化と適応放散を促したようです。

キンギョハナダイの群れdownsize
(キンギョハナダイの群れ)
5倍も多い遺伝子変異が「顎」に集中!
シクリッド科で起きた機能遺伝子(コード領域)の変異は他の魚(例えばトゲウオ科)に比べ5倍です。しかもその変異を起こした遺伝子の多くが顎の形成(カタチを決める)に関係するそうです。
前編でご紹介しましたが、シクリッドたちが「第2の顎と歯」で大繁栄した“ヒミツ”の1つらしい。


ダンディーなクロユリハゼREVdownsize
(ダンディーなクロユリハゼ)
「遺伝子重複」は進化や種分化の強力なエンジン
今の機能を失わないまま、新しい機能を試せる「遺伝子重複」は高速進化の主な原動力です。

サンゴの森のモンツキスズメダイREVdownsize
(サンゴの森のモンツキスズメダイ)
遺伝子変異のほとんどは不都合で不利
機能遺伝子の変異のほとんどは不都合で不利な結果となります。大事な働きをしていた元の遺伝子の役割が失われるからです。

好奇心旺盛ロクセンスズメダイ幼魚REVdownsize
(好奇心旺盛ロクセンスズメダイ幼魚)
バックアップ・コピーがあれば安心してチャレンジ
一方、しばしば増殖時に誤って同じ遺伝子が2つコピーされる「遺伝子重複」が起こります。すると1つのコピーは古いまま、もう1つのコピーが新しい遺伝子に変貌することで不都合は起こらずに新しい機能が得られます。バックアップ・コピーのおかげで遺伝子は新しいチャレンジが可能になります。

「遺伝子重複」がシクリッドの高速進化を後押し
実際、アフリカン・シクリッドではこの遺伝子重複がたくさん起こり、結果新しい遺伝子による新しい機能が急速に出来て多様な種分化をしたようです。

ご興味あれば「続きを読む」をクリックください↓

過去の記事リストは下のイラストをクリック ↓ (日本国内と南の島の記事は「ヨーロッパの話題」にまとめています)
パリの話題minisizeREVフランス街歩きminisizeREV
ヨーロッパの話題minisizeREV生き物とちきゅうのお話minisizeREV
ヒコーキの話minisizeREVグルメ話minisizeREV

↓良かったらクリックをお願いします

ヒト遺伝子の98%はゲノムの“ダークマター”です
また、非コード領域の多様化は、機能遺伝子を変えずともその働きのオン/オフやタイミングを変えることで進化が起こります。
遺伝子DNA(genome)の大部分は“宇宙のダークマター”のような未知の領域です。
遺伝子DNAの内、体の主な材料や働きを担う蛋白質の設計図になっている(コードしている)部分は、ヒトならわずか2%で、残り98%は蛋白質を作らない「非コード領域」でリボゾームRNAなども含みます。
大部分は他の遺伝子の働きを調節する働きを持つようですが、まだよく分っていません。


調節遺伝子の変異は“ドミノ倒し“
この非コード領域の遺伝子に短期間に多様な変異が多く起こったようです。1つ1つの機能遺伝子が変異するよりも、多くの機能遺伝子の働きを調節する遺伝子(例えばマスター遺伝子)が1つ変異するだけで、他に変異がなくても多く機能が変わるインパクトの大きい変異です。

ちっちゃなRNAが摂食行動を変えた・・らしい
マイクロRNAは非コード領域から作られるとてもちいさなRNAです。小さいながら遺伝子の発現(スイッチのオン/オフ)を調節します。そしてシクリッドの場合マイクロRNAの変異も多く、それが摂食行動(どんな餌をどのように捕るか)の摂食の多様性(さまざまな餌を食べる)に一役買っているようです。

USBメモリーのように遺伝子を運ぶトランスポゾン
転移因子と言うより「トランスポゾン」と言う名の方が知名度が高いかも知れません。転移因子はゲノム(遺伝子DNA)のある場所から別の場所へまるでジャンプするように飛び移りますが、そのとき近くの機能遺伝子を“道ずれ”にします。違う場所に移った機能遺伝子は異なる調整を受け、その結果新しい形質の出現に繋がることもあります。

シクリッドに起きた遺伝子の高速変異
大事な基本の働きをする遺伝子は長い進化を経ても変わらないのですが、普通の遺伝子はランダムで有利か不利かは5分5分、中立の変異が一定のペースで起こります(だから変異の数と位置から種の近さや古さが分る)。
ところが、アフリカン・シクリッドたちは遺伝子変異が速いペースで起こったようです。


「2つの顎」と「豹変する遺伝子」の“かわいい曲者“
以上のようなことが重なって、結果、シクリッドたちは短期間にたくさんの種類に種分化したと考えられるそうです。本当に何がキーだったかは今後の研究のようですが、シクリッド、カワスズメたちはかわいいくせに、「2つの顎」とか、「高速に豹変する遺伝子」とか、シクリッドは“かわいい曲者”です。

構造湖のアフリカン・シクリッド遺伝子を解析
少しばかり正確を期すため原典要約の和訳を載せておきます、一部はしょってますが・・・。
Nature vol513 p375 “The genomic substrate for adaptive radiation in African cichlid fish.”の原典では、David Brawand氏、Meyer氏らが『アフリカン・シクリッド5系統、多様性の低い祖先系統のナイルティラピア( Oreochromis niloticus )と構造湖に棲む3系統 、タンガニーカ湖産で古くに分れたNeolamprologus brichardi / pulcher、マラウイ湖産で比較的最近分れたMetriaclima zebra、ビクトリア湖産でごく最近分れたPundamilia nyererei、それにタンガニーカ湖周辺の河川種 Astatotilapia burtoniの遺伝子を解析した』そうです。


高速進化には多くの分子機構が関わっている
その結果、『構造湖とその周辺に棲む東アフリカ系統は、祖先種ナイルティラピアや他の硬骨魚類と比較して、①過剰な遺伝子重複、②多くの非コードエレメントの多様化、③コード配列の加速進化、④転移因子の挿入に伴う発現の多様化、⑤新規マイクロRNAによる調節が認められ、アフリカン・シクリッドの“高速進化”には多くの分子機構が関わっていると考えられる』・・だそうです。

「進化への第一歩」、遺伝子に秘められた高速進化のしくみ
「進化」とは?厳密な線引きが出来る共通認識や定義はないように思います。
狭い意味なら明らかに別の種に変わってしまった場合、もう少し広い意味なら、ここでご紹介したような同じ種の1つの集団での形質(の割合)が変化することも含まれるようです。
たとえ狭い意味で捉えてもシクリッドたちに起こったことは少なくとも“現在進行形の進化への一歩”と言えると思います。
遺伝子には場さえ与えられれば短期間に高速進化するメカニズムが秘められているようです。


今回も八重山の海のサカナたち再出演
今回も前編と同じく、サカナつながりで添えるフォトは八重山諸島、石垣島のダイビングで出会ったサカナたちを載せました(再掲載)。
石垣島ダイビングフォト掲載の過去記事はこれです↓
みんなで育てばコワクない、植物の共存共栄+先島諸島の珊瑚礁散歩
もしもしカメさんどこから来たの?+ 竜宮城のような石垣の海 番外編
珊瑚礁の宝石、色鮮やか魚たち 石垣島ダイビング番外編
6月の海は恋の季節石垣島ダイビング記


次は違う動物たちに起こった高速進化をご紹介したいと思います。

出典: 日経サイエンス2015年8月号 「シクリッドの進化」 “Extreme Evolution” Axel Meyer氏執筆(原典: Scientific American April 2015)
出典: 「ゲノム進化:魚類アフリカンシクリッドの適応放散に関わるゲノム基質」“The genomic substrate for adaptive radiation in African cichlid fish” David Brawand et al. Nature vol513 p375 (18 Sep 2014) doi:10.1038/nature13726
http://www.nature.com/nature/journal/v513/n7518/abs/nature13726_ja.html?lang=ja
原典: “The Remarkable Throat Jaws of Cichlid Fish” Axel Meyer, Scientific American Volume 312, Issue 4, Mar 17, 2015
原典: “The Extraordinary Evolution of Cichlid Fishes” Axel Meyer, Scientific American Volume 312, Issue 4, Mar 17, 2015


1クリックで1円、協賛企業から寄付されます
大震災支援募金新アイコンKT20131025

ホスピタリティクリック募金

東松島市の仮設住宅の方々の工芸品ご紹介のブログにリンクしています
banner-himawari2.jpg

↓良かったらクリックをお願いします


スポンサーサイト

テーマ : パリ、フランス - ジャンル : 海外情報

コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する