集中すると周りが見えない、注意を操るマジック; ニューロマジック(その4)

集中すると周りが見えない、注意を操るマジック; ニューロマジック(その4)

新コーナーは脳の中のイリュージョン
うれしいことに、日経サイエンス誌の6月号から、この「ニューロマジック」シリーズ記事の出典「脳はすすんでだまされたがる」の著者2人、Stephen L. Macknik氏とSusana Martinez-Conde氏の新シリーズ「illusions 知覚は幻」が始まりました。写真、図がたくさんで分りやすく面白いです。
添えるフォトは庭に咲いていたビオラたちです。






画像ピースのジグゾーパズル
(0.1%画像ピースのジグゾーパズル)
何かが気になると他のものが見えない
ヒトたる所以の「注意の錯覚」を操るマジックがあります。ヒトはその五感で常に外界を探っていますが、一旦、何か気になる物や事があるとそこに注意が集中し、その代償として他の光景や出来事は無視されます。
ニューロマジックの前回までの記事はこれです↓
ニューロマジック、手品に学ぶ脳神経科学(その1)錯覚を操る技(前編)
生きる知恵だった錯覚で楽しむ手品;ニューロマジック(その2)
予測する動物だから騙されるマジックとは?ニューロマジック(その3)


注意のフレームを操るREV
(注意のフレームを操る)
「もしもし、この硬貨はあなたのですか?」
脳科学者とマジシャンとによるニューロマジックの集い「意識の手品」シンポジウム」がありました。
名マジシャンA氏(Apollo Robbins氏)は科学者G氏を舞台に上げ、G氏の上着の胸ポケットから25セント硬貨を取り出し(マジシャンA氏が隠し持っていたもの)、「この硬貨はあなたのですか?」、身に覚えのないG氏は「え?」。(G氏も観客も小さな硬貨に注意が行く)


質問に操られ自分のじゃないのに硬貨を調べる
ここでマジシャンA氏は間髪を置かず「何年の硬貨でしょう?」。言われるまま(自分の硬貨じゃないのにもう操られている)学者G氏は硬貨に目を凝らします。(これでG氏の「注意」はA氏の思いのまま)

ビオラ黄色REVdownsize
(庭の花、黄色のビオラ)
「注意のフレーム」を自在に操る「ミスディレクション」
このようにマジシャンは仕草や(例えば、棒を振る)、話術(「皆さん私の右手よく見てください」とか)、小道具(例えば、鳩が飛び出す)を操り、観客の注意の対象を視界全体から注目させたい物、動作、出来事のごく狭い視野、「注意のフレーム」に自在に誘導します。これは「ミスディレクション」とも呼ばれマジシャンの常套手段です。

貸してくれたのは抜き取られた自分の眼鏡
残念ながら老眼の学者G氏は硬貨の細かい字が読めず、ポケットの眼鏡を探します。そこでマジシャンA氏は「じゃ、これを使ってください」と眼鏡を差し出します。なんと、その眼鏡は学者G氏の眼鏡。
G氏が硬貨に気を取られているうちにマジシャンA氏はG氏のポケットからゆうゆうと眼鏡を失敬していたと言う訳です。


ビオラ白紫REVdownsize
(おしゃべりしているような白と紫のビオラ)
「注意のフレーム」の外側ならやりたい放題
ヒトはある事に注意が集中すると周りが見えなくなります。
マジシャンは観客の「注意のフレーム」を好きなものに誘導し、その「注意のフレーム」の“外側”でゆうゆうとネタを仕込み、仕掛けるのでバレない訳です。
眼鏡を抜かれても硬貨に注目しているG氏は気づかないのです。


「注意のフレーム」を悪用されないように・・
明晰な皆さまはお気づきですね、これ、スリの手口。「注意のフレーム」を悪用されないよう用心しましょう。

観客も「共同注意」で操る
仲間の学者G氏の間抜けぶりと、自分たちも気づかなかった驚きで脳科学者たちの客席は大うけだったそうです。観客もネタに気づかないのは観客の注意が「舞台のG氏が硬貨を見つめること」に引き付けられるからで、これは仲間と同じ物に注目してしまう「共同注意」です。
マジシャンは「注意のフレーム」だけでなく、「共同注意」も自在に操りみんなまとめてダマせるわけです。「共同注意」はこどもの「指さし」や仲間の「視線追従」など“注意(の対象)を共有する、させる”ことで日常でもよく経験しますね。


ビオラ赤紫downsize
(赤紫のビオラ)
視野の99.9%は“ピンぼけ”です
ヒトの視覚は視野中央、網膜面積のたった0.1%の中心窩でしか鮮明には物を見ることができません。その周囲の99.9%は常にぼやけています。
これを補うために、眼球は間欠的に視野をジャンプさせて(断続性運動)視界を色々な場所を探索し、その間隙では眼球は動きを止めて特定の狭い部分を見つめます(固視)。


脳は「0.1%の視野」を寄せたジグゾーパズルを見てる
無意識のうちに眼球はまるでレーダーのように視界を探索し、一方、脳では視界の中のたくさんの「0.1%の明瞭な画像」のピースをjグゾーパズルのように合成しています。だから私たちには「いつも広く視野の物が良く見えている」と感じられる訳です。

ビオラ青紫REVdownsize
(青紫のビオラ)
「0.1%の視野」が「注意のフレーム」に囚われてしまう
「注意のフレーム」を操られると、この「0.1%の視野」が、マジシャンが注目させたい物に囚われてしまいます。そのため周りで起こる事、たとえ身に着けている物でも気づかないと言うわけです(このとき、触覚の注意のフレームも同時に囚われています)。

でも、集中していない人にはバレますよ
この「注意のフレーム」を操る「ミスディレクション」を打ち破る方法があります。観客が“ものごとに集中出来ないような状態”ならこのマジックは効かないからです。
参加していた女性脳科学者の一人が妊娠中でつわりがヒドく、シンポジウムには出席したもののマジックはまったく楽しめなかったそうです。すると彼女だけにはバッチリとネタが見えてしまったそうです。


ビオラ薄紫REVdownsize
(淡い紫のビオラ)
すべてを感じ意識してたら身が持たない
車窓を過ぎる建物、パソコンのファンの音、台所の臭い、着ている服の肌触り、唾液の味・・・意識しますか?覚えてますか?無理です、情報の洪水になるので。
ヒトの眼、耳、鼻、皮膚、舌には日常とてもたくさんの映像、音響、触感、味や香りの情報が入ってきます。それを全部意識の対象として注意を払っていたら身が持たないですね。


興味ないものは無視する身勝手は脳資源のやりくり
感覚器からの膨大な情報は脳の興味を引かない限り脳に無視されます。でも脳の興味を引いた情報には直ちに脳は注意を集中します。脳が少ないリソースでやりくりする妥協策です。これは受け身の注意で「顕在的注意」と呼ばれるそうです。

先端科学を先取りしていたマジックの「匠」
「注意のフレーム」「ミスディレクション」「共同注意」「顕在的注意」などなど・・最近の脳神経科学研究で明らかになってきた脳の働きや仕組みを100年以上も前からマジシャンたちは巧みに利用してきたようです。先端科学と言えども、やはり「匠」の技には学ぶべきことが多いと言うことでしょうか?

出典: 「脳はすすんでだまされたがる」”Sleights Of Mind; What The Neuroscience Of Magic Reveals About Our Everyday Deceptions” 2010年 Stephen L. Macknik、Susana Martinez-Conde、Sandra Blakeslee共著、鍛原多恵子訳(2012年 角川書店)
出展: 日経サイエンス2015年6月号P.96「illusions知覚は幻;明暗のコーナー」Stephen L. Macknik、Susana Martinez-Conde執筆: 記事で紹介した名マジシャンApollo Robbins氏の写真も載っています


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