氷河が作ったアヌシー湖と氷河期を見つけたアガシ第2章 アヌシー湖とルイ・アガシ

氷河が作ったアヌシー湖と氷河期を見つけたアガシ
第2章 アヌシー湖とルイ・アガシ

サヴォワ料理レストラン
サヴォワ(Savoie)料理の一皿downsize
(サヴォワ(Savoie)料理の一皿)
前日もう1軒気になったサヴォワ(Savoie)の地方料理らしいレストランがあり、ちょっとおどけたブタさんの大きな看板なのですが、店構えは落ち着いています。おすすめのポークソテー(・・・のような一皿)を注文、これもおいしかった。
アルプスを氷河が削って出来たアヌシー湖
アヌシー湖複合downsize
(削られ露わになった山肌の地層がアヌシー湖を囲む)
全長約15kmに対して幅は一番狭いところで800mととても細長いアヌシー湖(Lac d'Annecy)は氷河湖で、氷期に大きくなったアルプス氷河が山を深く穿ったあとに間氷期になり氷河が溶けた水が溜まって出来た湖で水深が80m以上あるそうです。ヨーロッパ随一と高い透明度の湖水は青く澄んでいて湖畔の山肌はまるでミルフィーユにナイフを入れたようにスパっときれいにえぐられて地層の断面が露わになっています。氷河の力はすごいものです。
氷河期を見つけたルイ・アガシ
ティウー運河から見る愛の橋downsize
(Canal du Vasseから見る愛の橋)
ところで19世紀のスイス人地質学者ルイ・アガシ(Jean Louis Rodolphe Agassiz)を知っていますか?今でこそ常識ですが、昔氷河期(氷河時代)があったことを初めて唱え(氷河期理論)、フランス人のシャンパルティエ(J. Charpentier)とともにこれを立証した人です。
草原の巨石はノアの洪水ではなく氷河が運んだ
朝の光の中のティウー運河口downsize
(朝のティウー運河口周辺)
「ノアの洪水が運んだ」と人々が永く信じてきたヨーロッパじゅうに見られる草原の真ん中にポツンとある巨石は実は氷河が運んだ迷い石(ニューヨークのセントラルパークのものが有名)だと、その証拠に平行して走る擦り傷があるじゃないかと、そして昔はそこまで氷河があったのだよと。
アルプスで育ち地質や化石を良く見ていたアガシは危うく命を落としそうになりながらもロープ1本でクレバス深く降りて氷河が岩を削る証拠を見つけたそうです。理屈抜きに皆が信じていたことを覆すには大きな勇気と大変な努力が要ったと思います。
地球温暖化の発見もアガシの氷河期理論から
Annecy運河と自転車downsize
(運河沿いのたくさんの自転車、街歩きには便利なようです)
後半は地球や気候の話で、本も紹介していますので、興味のある方は「続き」を読んで下さい。
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氷河期とは世界中のどこかに氷河がある地質時代を指します。そのうちうんと寒くて氷河が広く覆っていた時期が氷期、寒さが緩んで氷河が後退した時期が間氷期で今は氷河期の間氷期です。
最近になって過去の地球の気候は穏やかではなく激しく変動したと分ってきています。全地球が凍結したり、氷河が広く覆ったり、サンゴ礁が消えてしまったり、急激に気温が低下したり、海水面が何100mも上下したり・・・と。だから温室効果ガス(CO2)が増えすぎると気候が変わってしまうよ、と。
日本では(多分)あまり有名ではないアガシですが、19世紀の彼の氷河期理論から始まった地球の姿や気候とその歴史を科学的につまり、理論的、実証的に捉える流れはやがて世紀を超えて地球温暖化の発見やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告へとつながっていきます。
わずかなきっかけで気候は暴走する
現在私たちは大変幸運なことに稀にみる安定で穏やかな気候に暮らしていますが、過去には気候は激しく、厳しく変動したと、今後もわずかなきっかけでも気候は暴走すると理解されています(その1つがCO2増加)。
これは数多くの先駆的な研究努力の積み重ねの結果ですし、例えば、大陸移動説で有名なアルフレッド・ヴェーゲナーは実は気象学者でもあり、彼が率いたグリーンランド探検に同行したエルンスト・ゾルゲが万年氷を掘れば過去の気象が判ることを初めて示したことが今日氷河や氷床をボーリングして温暖化の証拠とすることにもつながっています。
アガシ湖の由来
それでもアガシはちょっと隠れた先駆者ではないかと思い話題にしました。有史前にあった北米氷河の融氷湖「アガシ湖」に名前が残っています。
アヌシー湖から流れる澄んだ水downsize
(アヌシー湖から流れる澄んだ水)
今回は少し幅を広げて「ちきゅうの話」としましたが、もちろん専門分野ではないので中身は要するに「読後感想文」です。僕が読んでみて印象深かった以下の5冊にもっと詳しく載っていますので、ご興味があれば読んでみて下さい。最後にこれまでの気候研究の足取りを年表に書いてみましたが、アガシの役割が分ると思います。

アガシと氷河期発見に触れた本として・・・

“Noah’s Flood” 「ノアの洪水」
著者: Dr. William B.F. Ryan, Dr. Walter C. Pitman、発刊: 1998年
日本語版発刊: 2003年、訳者: 戸田 裕之、発行: 集英社
アガシと氷河期の話は第2章「転換」に載ってます。

“Snowball Earth: The Story of the Great Global Catastrophe That Spawned Life As We Know It” 「スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結」
著者: Gabrielle Walker、発刊: 2003年
日本語版発刊: 2004年、監修: 川上 紳一、訳者: 渡会 圭子、発行: 早川書房
アガシと氷河期の話は第3章「始まり-先駆者たちの業績/アガシが提唱したもの」に載ってます。

「気候文明史」
著者:田家 康(たんげ やすし)、発行:日本経済新聞出版社、発刊: 2010年
アガシと氷河期の話は第3章「最終氷期の終わりとヤンガードリアス・イベント」の 2. 「寒の戻り:ヤンガードリアス・イベント/氷河理論の創始者:ルイ・アガシ、アガシ湖の崩壊」に載ってます。

“Climate Crash” 「異常気象の正体」
著者: John D. Cox、発刊: 2005年
日本語版発刊: 2006年、訳者: 東郷えりか、発行: 河出書房新社
アガシと氷河期の話は第5章「六九通り-今昔の氷河時代の理論」に載ってます。

その他、アガシの業績そのものは載っていませんが、関連のある本として・・・

“The Discovery of Global Warming” 「温暖化の発見とは何か」
著者: Spencer R. Weart、発刊: 2003年
日本語版発刊: 2005年、訳者: 増田耕一、熊井ひろ美、発行: みすず書房


気候研究の足跡(専門家ではないので抜けもあると思います。不備な点はゴメンなさい)

1837年ルイ・アガシが「氷河期理論」を唱え、昔は氷河に覆われていた(氷期)ことを示す
1912年アルフレッド・ヴェーゲナーが「大陸移動説(今日のプレートテクトニクス)」を唱える
1920年代ミルティン・ミランコヴィッチが「ミランコヴィッチ・サイクル」、地球の軌道や地軸の変化で寒冷化と温暖化(氷期と間氷期)が周期的に起こると唱えるが受け入れられない
1930年エルンスト・ゾルゲがグリ-ンランドの氷床で初めて過去の気象を測る
1938年ガイ・カレンダーが初めてCO2が地球温暖化を進めていると唱えるが無視される
1957年初の「国際地球観測年」、氷床を掘って過去の気象を調べる国際協力がスタート
1958年チャールズ・キーリングがハワイのマウナロア山頂で半世紀以上続くCO2測定を開始、やがてCO2増加の重要な証拠となる
1968年チェザーレ・エミリアーニが海底のボーリングから過去わずかな地軸のずれで気温(実際は海水面=氷河の量)が何度も激しく変動したこと、そしてミランコヴィッチは正しかったことを示す
1970年ウイリアム・ライアンたちが地中海底の岩塩から昔(氷期の)地中海は干上がっていて氷が融けたときジブラルタルの堰が決壊して大洪水になったことを見つける(後にノアの洪水伝説のもとらしい黒海の氾濫も見つける)(氷期に海が干上がり、間氷期に戻る(海退と海進)、例えば、ナウマン象がいた頃日本は大陸とつながっていた)
1985年ウイリ・ダンスガードとハンス・オシュガーが氷の記録から気候は激しく周期的に変動する(ダンスガード・オシュガー振動)と示す(その後ハルトムート・ハイリッヒが急激な寒冷化の別の周期も見つける)
1989年ウォーレス・ブロッカーは北米大氷河が融けてできたアガシ湖が決壊、大洪水が北大西洋に流れ込み熱塩循環(メキシコ暖流でヨーロッパが温かい)が止まって気候が急変したと示す(これが最終氷期の終わりの「寒の戻り」、ヤンガー・ドリアス・イベントで氷に追われた民族の大移動を促し食糧の採取に窮して農耕の開始につながったのだそうです)(現在は「北極振動」としてより大きな気象変動現象として捉えられています)
1990年IPCCが第1回報告書を出す
1998年ポール・ホフマンが「スノーボール・アース(数億年前に全地球が凍結した)」説を唱える
2007年IPCCは第4次報告書で人為的要因によりCO2が増加していることを確認した


湖畔の日時計
アヌシー湖畔Champ de Mars公園のちょっと変わった日時計がありました。複雑で時間の読み方が分らないけど。もう一度湖畔をゆっくり散歩してから帰りのTGVに乗りました。
Champ de Mars公園の日時計downsize

(Champ de Mars公園のちょっと変わった日時計)
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