猛毒ガスを使って深海長時間潜水するアザラシ君+ブルーダイブ
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(ボーア効果と一酸化炭素中毒)
スーパーダイバーだぞ、ゾウアザラシ君!
ゾウアザラシ君は息継ぎせずに1時間半も潜れて、深度1700mの深海まで餌を求めて潜るスーパー・ダイバー・動物なんです。平均20分の潜水をたった2分ほどの息継ぎで数か月繰り返せるんだから。
(マンタを背景に舞うのはアマミスズメダイかな?(石垣島))
潜水中に居眠りするか、君は
ゾウアザラシ君は海水より比重が重くてジタバタしなくても1000m以上も潜れます。潜っている間は
実は休息期間で、中には潜水中に居眠りして海底にぶつかっても気づかない奴いるそうです。まるで通勤電車のサラリーマンですね。添えるのはマリンブルーの世界、(最近は行けてないのですが)石垣とサイパンのダイビング・フォトです。
猛毒一酸化炭素のおかげで長時間潜水なの?
でもなんでゾウアザラシ君はそんな離れ業ができるのか?それは(ヒトにとっては)猛毒ガスであるCO、一酸化炭素のおかげらしいんです。なんせ一酸化炭素の体内濃度はヒトの10倍、アザラシ仲間と比べても2-3倍多いんです。
一酸化炭素を使った「省酸素」です
息継ぎできない=酸素の供給が無い、長時間潜水では①まず代謝を抑える、②心拍数を下げる、③その上で酸素をチビチビ使いたい。一酸化炭素は体の組織で血液(の赤血球のヘモグロビン)から酸素が放たれるのを邪魔する効果があり、結果、息継ぎ無しで長時間潜れるようなのです。
以下は関連の過去記事です↓(クリックで飛びます)
海のトップスイマーマグロでも陸のママチャリ並みです;バイオロギングその2
ご自宅拝見バイオロギングで垣間見る動物の私生活 南ブルターニュ キブロン
「空賊」グンカンドリ、バイオロギングが明かした空中生活
泡が呼吸器にからだの働きを延長する体外構造
ヒマラヤ越えインドガンのスーパー呼吸機能
組織に酸素を運ぶ赤血球ヘモグロビン
そもそも肺で取り込んだ酸素がどのように体のすみずみ(の細胞)にまで“宅配”され、老廃物のCO2、二酸化炭素が“廃品回収”(&肺で呼気へ放出)されるのか?そのミソは血液の赤い色、ヘモグロビンの性質にあります。
(サンゴの先の中層に群れる魚たち(石垣島))
廃棄物二酸化炭素が実は大事な働きをする
赤血球にヘモグロビンに酸素いっぱいの肺(の吸気)から酸素が結合して、酸素を使って乏しくなった組織に血液で運ばれそこで酸素が放れる(解離する)ことで酸素呼吸が行われるのですが、呼吸の廃棄物二酸化炭素CO2も大事な働きをします。
炭酸があると赤血球は酸素を放しやすくなる
ヘモグロビン(の酸素結合部位ヘム)の酸素との結合のし易さ=酸素の放しにくさを表すのが酸素ヘモグロビン解離曲線(Oxygen–hemoglobin dissociation curve)ですが、抹消組織のように二酸化炭素(=炭酸)が多い=pHが下がると曲線が右にシフト(右方変移)してより酸素を放しやすくなります。二酸化炭素は酸素運搬の効率を高めているわけです(ボーア効果(Bohr effect)です)
(中層を行くマダラトビエイ(サイパン))
とってもコワイ一酸化炭素
一酸化炭素COがなぜ猛毒なのか?COは酸素O2より250倍もヘモグロビンに結合しやすく、肺での酸素との結合を邪魔します。
また、ヘモグロビンには(α2β2構造なので)酸素がくっつく場所(結合部位)が4つあり、その1つにCOが結合すると、組織で他の3つの部位から酸素が放れにくくなります(二酸化炭素とは逆の酸素ヘモグロビン解離曲線の左方変移)。
結果、組織に酸素が十分運搬されなくなり、特に脳では数分で致命的になります。
猛毒を上手に使うゾウアザラシ君
ところが、深海長時間潜水を行うゾウアザラシ君は赤血球ヘモグロビンの約1割(11%)が一酸化炭素が結合したヘモグロビン(COHb)で、このため酸素ヘモグロビン解離曲線が左方変移し酸素が放れにくくなっています。
(サンゴ礁のベラとシコクスズメダイらしき魚(石垣島))
「席取りゲーム」を仕切る一酸化炭素
例えば、CO、一酸化炭素が1つヘモグロビンにくっつくと4つの席の内、残り3つの席にくっついているO2、酸素が離れにくくなる=ヘモグロビンはゆっくり時間をかけて体の組織にO2、酸素を“チビチビ”と供給することになります。COによる省エネならね「省酸素」がゾウアザラシ君のスーパー潜水を可能にしているようです。(ヘモグロビンには4つの酸素結合部位があり4つとも酸素で埋まっていると結合は強いのですが、1つでも離れると「雪崩現象」のように他の3つの酸素も一斉に離れます(アロステリック効果)。ところが一酸化炭素は残り3つの酸素を足止めするので酸素はチビチビと消費されます)
ひたすら省エネ、省酸素の深海ダイビング
これだけではありません。ゾウアザラシ君、潜水中は心拍数も下げて=代謝も下げて=酸素消費量を減らして、長時間の深海潜水に適応しているようです。普通の潜水後の16%増しの酸素が残っていたそうです。
ゾウアザラシ君の一酸化炭素はどこから?
ちょっと待って、なぜゾウアザラシ君は体内にたくさんの一酸化炭素、COを持っているのか?→実はヘム蛋白質(ヘモグロビン、ミオグロビンなど)が代謝される時に一酸化炭素、COが副産物として出来るそうです。
救急医療にも役立つかも!
もう一つ大事なこと、ヒトの医療にも役立つかも?のことがあります。「虚血再潅流障害」ってご存知ですか?例えば、血管が詰まって酸素が届かなくて組織が障害される心筋梗塞、脳梗塞、その治療として血管を再疎通させるのですが、それまで酸素不足だった組織(の細胞)に突然急に酸素が送られるとROS(Reactive Oxygen Species)、所謂「活性酸素」が発生して、神経細胞や組織細胞の“自殺”(apoptosis、アポトーシス)を惹き起こします。ひどい場合は全身の臓器が傷害されます
深海ダイブからの海面浮上は大問題のはずなんですが・・
長時間深海潜水で酸素不足に耐えに耐えたゾウアザラシ君が海面浮上し呼吸すれば体の組織にはこの「虚血再潅流障害」が起こるはずなのです。でも大丈夫、だってCO、一酸化炭素が新鮮な空気からのO2、酸素もゆっくりと体の組織に行きわたるよう働くからです。
ゾウアザラシ君に学ぼう
だから、今回の研究成果は単に「ゾウアザラシ君ってスゴイ!」だけじゃなく、ひょっとしてヒトの医療にも役立つんじゃない?と言うことのようです。なお低酸素に耐える動物たちは同じように酸素ヘモグロビン解離曲線が左方変移しているそうです。ちなみに一酸化炭素、COを使って「省酸素」する動物の研究報告は出典著者Michael Tift氏らが初めてだそうです。
出典:” Adaptive role of carbon monoxide (CO) in deep-diving marine mammals” Michael Tift et al. 22nd Biennal Conference on the Biology of Marine Mammals (2017/10/22-27)
出典:”Killer gas CO aids elephant seals’ deep dives” Elizabeth Pennis Science 27 October 2017 Vol 358, Issue 6362
出典: 「サボり上手な動物たち/海のなかから新発見」(岩波科学ライブラリー201) 2013年、佐藤克文氏、森阪匡通氏共著(岩波書店)
出典:ウキペディア記事「一酸化炭素中毒」「ボーア効果」「ゾウアザラシ属」
出典:「CO中毒」波呂卓氏講演 松山赤十字病院救急部カンファレンス(2014/9/12)
出典: 「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」 2014年 渡辺佑基氏著(河出ブックス)
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過去の記事リストは下のイラストをクリック ↓ (日本国内と南の島の記事は「ヨーロッパの話題」にまとめています)





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スーパーダイバーだぞ、ゾウアザラシ君!
ゾウアザラシ君は息継ぎせずに1時間半も潜れて、深度1700mの深海まで餌を求めて潜るスーパー・ダイバー・動物なんです。平均20分の潜水をたった2分ほどの息継ぎで数か月繰り返せるんだから。

(マンタを背景に舞うのはアマミスズメダイかな?(石垣島))
潜水中に居眠りするか、君は
ゾウアザラシ君は海水より比重が重くてジタバタしなくても1000m以上も潜れます。潜っている間は
実は休息期間で、中には潜水中に居眠りして海底にぶつかっても気づかない奴いるそうです。まるで通勤電車のサラリーマンですね。添えるのはマリンブルーの世界、(最近は行けてないのですが)石垣とサイパンのダイビング・フォトです。
猛毒一酸化炭素のおかげで長時間潜水なの?
でもなんでゾウアザラシ君はそんな離れ業ができるのか?それは(ヒトにとっては)猛毒ガスであるCO、一酸化炭素のおかげらしいんです。なんせ一酸化炭素の体内濃度はヒトの10倍、アザラシ仲間と比べても2-3倍多いんです。
一酸化炭素を使った「省酸素」です
息継ぎできない=酸素の供給が無い、長時間潜水では①まず代謝を抑える、②心拍数を下げる、③その上で酸素をチビチビ使いたい。一酸化炭素は体の組織で血液(の赤血球のヘモグロビン)から酸素が放たれるのを邪魔する効果があり、結果、息継ぎ無しで長時間潜れるようなのです。
以下は関連の過去記事です↓(クリックで飛びます)
海のトップスイマーマグロでも陸のママチャリ並みです;バイオロギングその2
ご自宅拝見バイオロギングで垣間見る動物の私生活 南ブルターニュ キブロン
「空賊」グンカンドリ、バイオロギングが明かした空中生活
泡が呼吸器にからだの働きを延長する体外構造
ヒマラヤ越えインドガンのスーパー呼吸機能
組織に酸素を運ぶ赤血球ヘモグロビン
そもそも肺で取り込んだ酸素がどのように体のすみずみ(の細胞)にまで“宅配”され、老廃物のCO2、二酸化炭素が“廃品回収”(&肺で呼気へ放出)されるのか?そのミソは血液の赤い色、ヘモグロビンの性質にあります。

(サンゴの先の中層に群れる魚たち(石垣島))
廃棄物二酸化炭素が実は大事な働きをする
赤血球にヘモグロビンに酸素いっぱいの肺(の吸気)から酸素が結合して、酸素を使って乏しくなった組織に血液で運ばれそこで酸素が放れる(解離する)ことで酸素呼吸が行われるのですが、呼吸の廃棄物二酸化炭素CO2も大事な働きをします。
炭酸があると赤血球は酸素を放しやすくなる
ヘモグロビン(の酸素結合部位ヘム)の酸素との結合のし易さ=酸素の放しにくさを表すのが酸素ヘモグロビン解離曲線(Oxygen–hemoglobin dissociation curve)ですが、抹消組織のように二酸化炭素(=炭酸)が多い=pHが下がると曲線が右にシフト(右方変移)してより酸素を放しやすくなります。二酸化炭素は酸素運搬の効率を高めているわけです(ボーア効果(Bohr effect)です)

(中層を行くマダラトビエイ(サイパン))
とってもコワイ一酸化炭素
一酸化炭素COがなぜ猛毒なのか?COは酸素O2より250倍もヘモグロビンに結合しやすく、肺での酸素との結合を邪魔します。
また、ヘモグロビンには(α2β2構造なので)酸素がくっつく場所(結合部位)が4つあり、その1つにCOが結合すると、組織で他の3つの部位から酸素が放れにくくなります(二酸化炭素とは逆の酸素ヘモグロビン解離曲線の左方変移)。
結果、組織に酸素が十分運搬されなくなり、特に脳では数分で致命的になります。
猛毒を上手に使うゾウアザラシ君
ところが、深海長時間潜水を行うゾウアザラシ君は赤血球ヘモグロビンの約1割(11%)が一酸化炭素が結合したヘモグロビン(COHb)で、このため酸素ヘモグロビン解離曲線が左方変移し酸素が放れにくくなっています。

(サンゴ礁のベラとシコクスズメダイらしき魚(石垣島))
「席取りゲーム」を仕切る一酸化炭素
例えば、CO、一酸化炭素が1つヘモグロビンにくっつくと4つの席の内、残り3つの席にくっついているO2、酸素が離れにくくなる=ヘモグロビンはゆっくり時間をかけて体の組織にO2、酸素を“チビチビ”と供給することになります。COによる省エネならね「省酸素」がゾウアザラシ君のスーパー潜水を可能にしているようです。(ヘモグロビンには4つの酸素結合部位があり4つとも酸素で埋まっていると結合は強いのですが、1つでも離れると「雪崩現象」のように他の3つの酸素も一斉に離れます(アロステリック効果)。ところが一酸化炭素は残り3つの酸素を足止めするので酸素はチビチビと消費されます)
ひたすら省エネ、省酸素の深海ダイビング
これだけではありません。ゾウアザラシ君、潜水中は心拍数も下げて=代謝も下げて=酸素消費量を減らして、長時間の深海潜水に適応しているようです。普通の潜水後の16%増しの酸素が残っていたそうです。
ゾウアザラシ君の一酸化炭素はどこから?
ちょっと待って、なぜゾウアザラシ君は体内にたくさんの一酸化炭素、COを持っているのか?→実はヘム蛋白質(ヘモグロビン、ミオグロビンなど)が代謝される時に一酸化炭素、COが副産物として出来るそうです。
救急医療にも役立つかも!
もう一つ大事なこと、ヒトの医療にも役立つかも?のことがあります。「虚血再潅流障害」ってご存知ですか?例えば、血管が詰まって酸素が届かなくて組織が障害される心筋梗塞、脳梗塞、その治療として血管を再疎通させるのですが、それまで酸素不足だった組織(の細胞)に突然急に酸素が送られるとROS(Reactive Oxygen Species)、所謂「活性酸素」が発生して、神経細胞や組織細胞の“自殺”(apoptosis、アポトーシス)を惹き起こします。ひどい場合は全身の臓器が傷害されます
深海ダイブからの海面浮上は大問題のはずなんですが・・
長時間深海潜水で酸素不足に耐えに耐えたゾウアザラシ君が海面浮上し呼吸すれば体の組織にはこの「虚血再潅流障害」が起こるはずなのです。でも大丈夫、だってCO、一酸化炭素が新鮮な空気からのO2、酸素もゆっくりと体の組織に行きわたるよう働くからです。
ゾウアザラシ君に学ぼう
だから、今回の研究成果は単に「ゾウアザラシ君ってスゴイ!」だけじゃなく、ひょっとしてヒトの医療にも役立つんじゃない?と言うことのようです。なお低酸素に耐える動物たちは同じように酸素ヘモグロビン解離曲線が左方変移しているそうです。ちなみに一酸化炭素、COを使って「省酸素」する動物の研究報告は出典著者Michael Tift氏らが初めてだそうです。
出典:” Adaptive role of carbon monoxide (CO) in deep-diving marine mammals” Michael Tift et al. 22nd Biennal Conference on the Biology of Marine Mammals (2017/10/22-27)
出典:”Killer gas CO aids elephant seals’ deep dives” Elizabeth Pennis Science 27 October 2017 Vol 358, Issue 6362
出典: 「サボり上手な動物たち/海のなかから新発見」(岩波科学ライブラリー201) 2013年、佐藤克文氏、森阪匡通氏共著(岩波書店)
出典:ウキペディア記事「一酸化炭素中毒」「ボーア効果」「ゾウアザラシ属」
出典:「CO中毒」波呂卓氏講演 松山赤十字病院救急部カンファレンス(2014/9/12)
出典: 「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」 2014年 渡辺佑基氏著(河出ブックス)
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